リスク対応計画は、プロジェクト目標に対する好機を高め、脅威を減少させるための選択肢と方策を策定するプロセスです。

リスク対応計画で重要な点として、合意が得られて予算が決められた各リスク対応策について、責任者を1人特定して任命するという点です。
立案したリスク対応策は、そのリスクの重要度に相応したものであリ、コスト効率良く問題を解決するものであり、プロジェクトが置かれている状況において現実的であるとともに、関係者全員が合意し、責任者が明確になっていなければいけません。
またそれは、タイムリーに実行されなければなりません。

リスク対応計画

インプット

リスク登録簿

リスク登録簿に記述される項目には以下のようなものがあります。

  • 特定したリスク
  • リスクの根本原因
  • 対応策案の一覧
  • リスク・オーナー
  • 兆候や警告のサイン
  • プロジェクト・リスクの相対的な等級と優先順位の一覧
  • 早急な対応が必要なリスクの一覧
  • 追加の分析と対応の対象となるリスクの一覧
  • 定性的リスク分析結果の傾向
  • 優先順位の低いリスクをまとめた監視リスト

リスク・マネジメント計画書

リスク・マネジメント計画書に記述される項目には以下のようなものがあります。

  • 役割と責任
  • リスク分析の定義
  • レビューの時期(およびレビューによリリスクを除外する時期)
  • リスクの高・中・低を区別するリスクの境界値

ツールと技法

リスクヘ対応する戦略はさまざまであり、個々のリスクに対して最も効果的と思われる戦略やその戦略の組み合わせを選択すべきです。

デシジョン・ツリー分析などのリスク分析ツールは、最適な対応策を選択するために使用することができ、その戦略を実行に移すための具体的な活動を策定します。これは主となる戦略だけではなく、必要に応じてバックアップ戦略にも対応したものにします。選択した戦略があまり効果的でない場合や、受容したリスクが発生した場合に実行すべき代替計画を策定します。
二次リスクもレビューすべきです。時間やコストに対しては、しばしばコンティンジェンシー予備を割り当てます。コンティンジェンシー予備を設ける場合には、それを使用するトリガーとなる条件を定めます。

マイナスのリスクもしくは脅威に対する戦略

マイナスのリスクもしくは脅威に対する戦略としては、回避・転嫁・軽減・受容の4つがあります。受容については、マイナスのリスクである脅威にも、プラスのリスクである好機にも使用出来ます。

回避

回避とは、脅威を完全に取り除くために、プロジェクトマネジメント計画を変更することです。
スケジュールの延長、戦略の変更、スコープの縮小などがこれに該当します。最も極端なリスク回避の戦略はプロジェクトを 完全に中止することです。プロジェクト初期に発生するリスクは、要求事項の明確化、必要情報の入手、コミュニケーションの改善、専門技術者の採用などによって回避できます。

転嫁

転嫁とは、脅威によるマイナスの影響を、脅威への対応責任も合わせて、第三者に移転することです。
リスクを転嫁するということは、リスクをマネジメントする責任を単に第三者に渡すだけであり、リスクを取り除くものではありません。財務的なリスクの影響に対処するには、リスクの責任を転嫁することが最も効果的な方法です。
リスク転嫁ではほとんどの場合、リスクを引き受ける側へリスクに対する対価の支払いが必要になります。リスク転嫁の手段は多様で、保険や担保、保証などがあります。
多くの場合、実費償還型の契約はコストのリスクを購入者が負うものとなり、定額契約はリスクを納入社が負うものとなります。

軽減

軽減とは、悪影響を及ぼすリスク事象の発生確率や影響度を受容可能な限界値以下にまで減少させることです。
プロジェクトにおいてリスクの発生確率やその影響を減少させるために早期に対処することはリスクが発生した後で損害を修復するよりもはるかに効果的です。より簡潔なプロセスの採用、より多くのテストの実施、より安定したサプライヤーの選定などが軽減策の例です。

受容

プロジェクトからすべての脅威を取り除くことはほとんど不可能であることか受容という戦略が採用されます。
受容とはリスクを受け入れることを容認することで、プロジェクト・チームがリスクに対処するに当たり、プロジェクトマネジメント計画書を変更しないと決めたと言うこと、あるいは他に適当な戦略を見つけられなかったことを意味します。
受容の戦略は、さらに受動的受容能動的受容の2つに分類されます。
受動的受容とは、受動的に受容するという戦略を文書化する以外は何もせず、脅威や好機が起きたときに対処する戦略です。
能動的受容は、リスクに対処するために、時間、資金、資源の量などに関してコンティンジェンシー予備を設けておく戦略です。

プラスのリスクもしくは好機に対する戦略

プラスのリスクもしくは好機に対する戦略としては、活用、共有、強化、受容の4つがあります。受容については、マイナスのリスクである脅威にも、プラスのリスクである好機にも使用出来ます。

活用

活用は、組織がその好機を確実に実現させたいと望む場合に、プラスの影響をもつリスクに対して採用される戦略です。
活用の戦略は、好機が確実に到来するようにすることで、上向きのリスクに関する不確実性の除去を目指す戦略です。直接的に活用する対応策の例として、組織内のより有能な要員をプロジェクトに割り当てることにより、完成までの期間を短縮することや、当初計画していたよりも安いコストで提供することなどがあります。

共有

共有とは、プロジェクトの利益となる好機をとらえる能力の最も高い第三者に好機を実行する権限の一部、または全部を割り当てる戦略です。
共有に基づく処置の例としては、リスク共有のパートナーシップ、チーム、特的目的会社、ジョイント・ベンチャー等の形成があります。これらは、参加者全員がその活動から利益を得られるように、好機を利用するという明らかな目的をもって形成されています。

強化

強化は、好機の発生確率やプラスの影響、あるいはその両方を増加させる戦略です。
プラスの影響をもつリスクに関する主要な要因を特定して、それを最大化することにより、発生F確率を増加させるものです。好機を強化する例としては、アクティビティを早く終了させるために、より多くの資源を追加投入することが挙げられます。

受容

好機を受容するということは、積極的に利益を追求することはしないが、好機を実現したときにはその利益を享受しようという戦略です。

PMP試験では、このリスク対応の戦略について、出題される傾向が多いため、それぞれの戦略の特徴についてはしっかりと理解しておきましょう。

リスク対応の戦略

これら戦略の中で、回避以外の戦略については、プロジェクトとしてリスクを受け入れている点を認識しておきましょう。

発生時対応戦略

対応策の中には、特定の事象が発生した場合に限って使用するように決められたものがあります。
リスクの中には、そのリスク対応計画を実行するまでに十分な予兆があると考えられる場合、プロジェクト・チームは既定条件下でのみ実行する対応計画を用意しておくことが妥当です。
中間マイルストーンが達成出来そうもない場合には、納入者に優先度を上げさせるなど、コンティンジェンシーによる対応策を発動する契機となるイベントを定義して、追跡することが必要です。

専門家の判断

特定の定義済みリスクに対する処置に関して、知識を有する関係者から得られるインプットです。

アウトプット

リスク登録簿更新版

リスク対応計画プロセスでは、適切な対応策を選択し、合意し、リスク登録簿に登録します。リスク登録簿は、優先順位と計画した対応策に相応した詳細さで記入します。優先順位が高いまたは中程度のリスクは、詳細に記述し、定期的に監視して、優先順位が低いリスクは「監視リスト」に記載し、定期的に監祝を行います。
リスク登録簿に記載する内容としては以下のようなものがあります。

  • 特定したリスク、リスク記述、影響を受けるプロジェクト領域(WBSの要素等)、その原因(RBSの要素等)、 およびプロジェクト目標に及ぼす影響
  • リスク・オーナーとその割り当てられた責任
  • 優先順位を付けたプロジェクト・リスクー覧を含む、定性的リスク分析のアウトプット
  • 合意した対応戦略
  • 選択した対応戦略を実施するための具体的な処置
  • リスク発生のトリガー、兆候、警告サイン
  • 選択した対応策を実行するために必要な予算とスケジュール・アクティビティ
  • コンティンジェンシー計画とその実行の契機となるトリガー
  • リスクが発生し、第一の対応策が不十分であることが判明した場合に、そのリスクに対して適用する代替計画
  • 計画した対応策を講じた後にも残ると考えられる残存リスク、ならびに意図的に受容したリスク
  • リスク対応策を実施した結果から直接発生する二次リスク
  • プロジェクトの定量的リスク分析や組織のリスク境界値に基づいて算出するコンティンジェンシー予備

リスク関連の契約決定事項

保険、サービス、その他の契約協定書などのようにリスクを転嫁する決定は、このプロセスで選択します。選択した契約の種類によって、リスクを共有する枠組みも決められて、これらの決定は調達計画プロセスのインプットになります。

プロジェクトマネジメント計画書更新版

更新されるプロジェクトマネジメント計画書には、以下のようなものがあります。

  • スケジュール・マネジメント計画書
    リスク対応策により影響を受けるプロセスと実施について、変更を反映させるために、スケジュール・マネジメント計画書を更新します。これには、資源の投入と平準化に関する許容度や行動の変更、およびスケジュール自体の更新を含みます。
  • コスト・マネジメント計画書
    リスク対応策により影響を受けるプロセスと実施について、変更を反映させるために、コスト・マネジメント計画書を更新します。これには、原価計算、追跡、報告書に関する許容度や行動の変更、およびコンティンジェンシー予備の支出による更新を含みます。
  • 品質マネジメント計画書
    リスク対応策により影響を受けるプロセスと実施について、変更を反映させるために、品質マネジメント計画書を更新します。これには、要求事項、品質保証、品質管理に関連する許容度や行動の変更、および要求事項文書の更新を含みます。
  • 調達マネジメント計画書
    リスク姑応策により影響を受ける内外製決定や契約タイプの変更などに戦略変更を反映させるために、調達マネジメント計画書を更新します。
  • 人的資源計画書
    リスク対応策により影響を受けるプロジェクト組織構造や資源適用の変更を反映させるために、人的資源計画書の一部である要員マネジメント計画書を更新します。これには、要員割り当てに関連する許容度や態度の変更、および要員配置計画への変更を含みます。
  • ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー
    リスク対応策により新たな作業が生じた(または除外された)場合はその変更を反映させるために、WBSを更 新します。
  • スケジュール・ベースライン
    リスク対応策により新たな作業が生じた(または除外された)場合はその変更を反映させるために、スケジュール・ベース ラインを更新します。
  • コスト・パフォーマンス・ベースライン
    リスク対応策により新たな作業が生じた(または除外された)場合はその変更を反映させるために、コスト・パフォーマンス・ベースラインを更新します。

プロジェクト文書更新版

更新されるプロジェクト文書には、以下のようなものが含まれます。

  • 前提条件ログ更新版
    リスク対応策の適用により新たな情報が判明するにつれて前提条件も変化します。この新たな情報を取り込むために、前提条件ログを再検討します。
  • 技術文書更新版
    リスク対応策の適用により、新たな情報が判明するにつれて、技術的実施方法や物理的な要素成果物も変化します。この新たな情報を取り込むために、関連する補助文書を再検討します。

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